風見鶏テキスト

たまに思い出した様に散文詩を書きます。

拾った人形を可愛がってはいけません

都内某所に女が一人
赤いランドセル少女じゃないか
揺れる給食袋の白を金曜のお日様が照らしてる
スクールゾーンの字を踏みしめて
友達と別れて一人りきりさ
通学路のゴミ置き場に収集車に忘れられた人形が
ぽつねんと座っていた
少女に清純なくたびれた笑顔を向けるから
可哀想になって少女人形を拾うのさ

少女は家に帰る事が無かった
消えてしまったよ永遠に
周りは這々の体で探したけれども
結局見つかりはしなんだ
少女の母親と父親は
嘆き悲しみ気でも違ったか
家の前に落ちていた仏蘭西人形を
娘だと思って育て始めたさ
お風呂場で洗って優しくブローして
可愛がったね慈しんだね
名前はトミコ消えた娘と同じ名前さ

トミコは人形愛らしい人形
何処に行くにもママの手を借りて
言葉を話すのもママの口を借りなきゃならない
何とも不憫の娘だったさ
だけどもトミコは動物とも話せたし
メンチコロッケとも会話できたよ
ある日メンチコロッケが聴いたのさ
トミコトミコ捨てられた君にも好きな人はいたかい?
そしたらトミコはママの口を借りて
「あら失礼ね現実離れした仏蘭西人形も恋はするものよ。」
白百合の様に真っ白な笑顔をくれた
その後メンチコロッケはママのお腹に収まり
トミコは少し悲しかったさ

トミコの心を操る四つの手と足は
人形の古い悲しみをポロポロとはぎ取っていく
ママとパパとトミコは幸せだったけど
本当じゃ無いから
きっとトミコはママとパパにお別れするのさ
お家を出てすぐ悪たれ烏につつかれ
綺麗な金髪が少し抜けてしまったけれど
これは悪い子のトミコの贖罪
左右のバランスが崩れても人形の様にトミコは歩いたさ
トミコが目指すのは真っ白い草原の氷に埋まった地獄だとして
気の滅入るような絶望だとしても
きっとママとパパが
トミコに費やした時間さへ凍らせてくれるから
トミコはそれで満足だった

幸せだった赤い屋根の家では
母親と父親が血眼になってトミコを探したさ
結局また見つかることはなかったから
母親と父親は夫婦心中でキチガイ夫婦と噂され
月並みに漏れず使い捨ての話題として忘れられていった

トミコは永久凍土の地獄の最中
優しかったママとパパの笑顔を思い出し
自己嫌悪に苛まれたけれど
こう寒くては誤ろうにも口が動かない
もともとトミコは
ママの口を借りなけりゃじゃべれなかったからね
トミコは人形仏蘭西人形今はボロの冷たい人形
まるで人形アイスじゃないか
可哀想に思っても手を出してはいけないよ
人形の語る名前を出してはいけないよ

心底純粋に君を騙すだろうさ
本人は心底純粋な気持ちで罪の意識も感じず
自分自身を不幸な人形に認めてしまうから
だから氷に埋まっているのさ
「今日も誰も来ないでしょう・・・。」
なんて孤独な顔をして
心ではこの氷を溶かすほどに助けて欲しと懇願してる
トミコの名前を呼んではいけない
罪の意識に苛まれたって
硝子の瞳じゃ結局の所何も感じてないんだからね