風見鶏テキスト

たまに思い出した様に散文詩を書きます。

ジェム

眠れない癖に眠る夢を見て
不愉快に騒々しい僕達
笑って歩き出した兄さんは
時たま小瓶を傾けながら
危なっかしい足取りで
何処に行く訳でもなく
誰を探す訳でもなく
僕達から離れていった

兄さんの小瓶は水色
水色で底が深い青なんだ
下から覗けば真っ暗で
振る度にちゃぽんと籠もった音がする
兄さんは何処へ?
兄さんを探そう

僕は兄さんがいないと何も出来ない
歩く事も
話す事も
僕に残っているのは
兄さんを傷つける言葉ばかりだ
兄さんごめんよ
傷つけてごめん
何も解らない子供だったね
まるで箱庭の王様だったね

鍵付きの靴を片方無くしてしまいました
兄さんに探して貰わなきゃ僕は動けない
兄さんに巻いて貰わなきゃ

兄さん帰ってきてよ
悲しいよ心がぽっかりからっぽなんだ
兄さん兄さん
兄さん兄さん

兄さんの後ろ姿は
三日前に僕が投げつけた瓶の破片が刺さってる
兄さんはアルマジロみたいに
転がって行ってしまった

兄さんの小瓶の
真っ青な小瓶の中には
あの人みたいに
憎悪の黒が詰まっている訳じゃなくて
ただ純粋な深い悲しみが
底の方に貯まっているだけだった
僕はそれが羨ましくて悔しくて
だからあの人を消してしまったんだ

遠く太陽に透かされた
兄さんの小瓶は水色
兄さんは小瓶を抱えて出て行った

今は手元に無い僕の小瓶
僕の色は一体何色だったのだろう?
兄さんのいない今はもうわからない