風見鶏テキスト

たまに思い出した様に散文詩を書きます。

Arlequin rhapsody

 
お嬢さんお嬢さん
お客のいないアルルカンは ただの狡賢い滑稽さ
派手なだけの乞食みたいなものさ
どうか私の愚かな話を その陶器の様な耳で聴いてくれるかい?


昔それは腕の良いブリキの細工師がいてね
とても沢山のブリキ細工を作った
タツムリの細工や地上にいない虫の細工
果ては大きいものだと 人の形の細工まで
ああ 中でも一番出来の良かった 小さな小鳥の細工は元気だろうか?

ある時そんな細工師はどんな訳か恋をしてね
お嬢さんみたいな 素敵な人だった
無口で 冷たくて でも瞳だけは強く燃えていて
細工一筋だった彼は 首っ丈だった

けれど いくら彼が素敵な贈り物を送っても
沢山の愛を囁いても とうとう彼を見てはくれなった
彼も当時は若くてね 苛立ち 怒りに震え
ついには彼女に手をかけてしまったのさ
街から少し離れた小高い丘でね 緑が萌えていたよ
その日街はお祭りで 陽気な調べが薄く聴こえた

彼は失望した 全てに失望した 自分自身にさへ失望して
自らをブリキの細工にしてしまったのさ なんて愚かな男
足を捻じ曲げ 手をバラバラに 体をパズルに 首を歯車に
果ては頭まで弄って 全てを忘れたブリキ人形に成り果てたのさ
さあこれでおしまい お付き合いありがとうございます

え?彼がその後どうなったかって?
ふむ やはり人の身が恋しくなってね 人間に舞い戻った

だがしかし運命というものは とんと残酷なものさ
結局彼は彼女を忘れられなんだ
彼女を追って 何度も何度も砂時計をくるり 回している
今は愚かなアルルカン 飛び跳ね歌う黒い猫
ああ君は本当に良く彼女に似ている


くるっとぅり くるっとぅり
子猫の様に丸めた背中 歩き始めた途端
身体の中の砂時計は 逆さまにくるり
落ちていくのは 真砂の砂?それとも時の移ろい?
黒い猫の仮面は何かで濡れ 今さへ早くと 急かし立てる

賢い愚者はたと気付き
在り来たりに 何も出来ず見つめた
落ちていく砂 降り積もる時は やはり動かない

君と出会うのは何度目だろうか 光栄さ
追いついた 離しはしないよ 
今は 今だけは