風見鶏テキスト

たまに思い出した様に散文詩を書きます。

箱蟲

「開けてはいけない扉の向かい
 手を合わせて泣きじゃくる人々の上空 成層圏の彼方
 宇宙線を浴びた蟲の一団が 鳥肌の立つ羽音を起てて
 この街に落ち 人々に同化していく
 僕は音もなく部屋から飛び出し 空を仰げば尊し
 逆さまの塔の 輪郭が見えるほど 白い羽虫の大軍団は
 刻一刻と僕らの街に迫りつつあった・・・」

 軋む身体 投げ出して 今
 大きな 蛇腹の影を落とし込む
 この街を過ぎ去ろう
 道路の上で 笑う人々と目を合わさぬ様に
 何処か遠くへ逃げよう
 行く場所が見つからなくたって
 ぐるぐる回っていれば その内時間も過ぎるだろうさ
 逝き過ぎ行く
 金の蟲
 恋の蟲
 黒い蟲
 赤い蟲
 ぐるぐる回っていれば その内時間も過ぎるだろうさ
 白い影の人の動く 標準仕様の時間軸 
 暗がり箱の陰で光る 蟲の瞳は複眼効果

 キーコロ鳴くよ 夜の蟲
 キーコロ鳴くよ 暗い空
 真っ白な蛇腹の花の上 淫らに眠る髪切虫
 蠢く蟲の声は 静かに 静かに
 蟲の声が 嗚呼嗚呼
 蟲の声が 嗚呼嗚呼
 許しておくれと 叫ぶ様さ

 防虫しましょう?
 防虫しましょ?
 防虫しましょう?
 そうしましょう?
 そうしましょうか?×4

 軋む身体 投げ出して 今
 大きな 蛇腹の影を落とし込む
 この街を過ぎ去ろう

 暗がり箱を小脇に抱えて 何時か 本当に
 逃げられるのなら 
 この空を覆う羽虫の大群を他所に
 明るい日差しの下 木漏れ日に眠ろう