風見鶏テキスト

たまに思い出した様に散文詩を書きます。

ぐらで

在り来たりな影の容
遅れた季節の名残
色濃く溢れ出して
やがて晩夏の世界に溶け出ていく

トタントタン
電車の音
遠くへ遠くへ
思いを馳せる

ここでない場所
今ではない時間
遠くへ遠くへ
トタントタン

心の中のほとぼりは
あの日のまま という訳じゃないけれど
思い出の中で燻って
淡くて 微かに痛い

見知った線路沿いを
自転車に乗って走る
行く場所も解らないままに
独りを紛らわすみたいに

口笛の音が解けて
空に向かっていくと
懐かしい青色の透明な空が
泣くように笑った
「久しぶりだね」って同じように僕も笑う

ペダルが静かに音を立てて
僕を運んでいく
トタントタン
遠い音

在り来たりな影の容
遅れた季節の名残
色濃く溢れ出して
やがて世界の色はまた変わっていく